田舎の夜道
18時だというのにもう暗い。
毎年飽きもせずに、まだこんな時間なのにもう真っ暗だねと言ってしまう季節がやってきた。
冬は星が綺麗に見えるからいい季節、だというのにすっかり雲が空を覆ってしまい光を遮ってしまっている。せっかく上を向いて見たというのに、やるせない。
これでは寒いだけじゃないかと思ってしまう。
お月様の光も届かないぐらいの田舎の暗闇で、少し前に友人と話をしたことを振り返ってみることにした。
「相手がどう思っているかもわからないのに、よくご飯誘ったり、笑顔で遊びに行ったりできるよねって思ってたんだよ。今はそんなに病んでるわけじゃないけど(笑)」
久しぶりにあった同級生は学生時代にあまり学校に来ない人で、5年ぶりぐらいにあったというのにいきなりそんなことを言うひねくれ者だった。そっちから誘っているくせに。
かと言って別に問題のある人間と言われれば常識の範囲内におさまるぐらいだったと思う。
だけど、周りが普通ではいさせてくれなかったのだろう。
大多数の価値観とずれているというだけで、攻撃してもいいという大義名分が生まれてしまう異質な空間だったから、詳しくは語らなかったけれどそこで人付き合いが嫌になったのかもしれない。
お酒を久しぶりに飲むと言う彼から色々今の自分に対してお説教のようなことを言われ、何も言えなくなるとフォローのように「まあでも…」みたいな感じで褒めてくるのが面白かった。
頼んだウィスキーのロックの氷を見つめながら、コロコロとグラスを回していると。
「自分に関わっている人たちが、自分のことをどう思っているのかなんてわからないって怖くない?さっきまでバカやって一緒に笑っていたやつが、別のところいったら自分のことを悪く言ってるなんてよくある話じゃん」
だからあの時は狂いそうだったよ、と真剣な顔をして話す彼からは、それでも同情してほしいというような雰囲気は感じなかった。
人間関係なんて友人、上司、恋人からの自分に向けられた言動や、周りからの話からでしかわからない。その人が本当の意味でどう思っているのかなんて恐らく一生かかってもわかりあえないだろう。ゲームみたいにパラメーターが見えるわけじゃあないのだ。
「こんなこと考えてたってきりがないのはわかってるよ、でもなんか、自分が本当にここにいていいのかわからなくなるじゃん」
だけど、だからこそ大切に思う人には言葉や、行動で示してあげないと伝わらないんだと思った。
自分の周りにいてほしいことを伝えないと不安に思ってしまう人もいるし、真実いてほしいならためらうべきではない。伝えることで全てが叶うわけでは、もちろんないんだけど。
この言葉を聞いて、余計にそう思う。
神奈川や東京のすぐそばに誰かがいるほどに溢れている都会とは違って、周りに誰もいない夜の田舎は二重の意味で寒くなる。
いまだに曇った空は全然星を見せてくれないし、ガソリンスタンドの明かりしかないけれど、なぜか少しその光をみて暖かくなる。
人は1人で生きていけないというのは、生きる意味を見失いがちになるからかもしれない。
暗い道を帰りながら、ベロンベロンになって帰った友達を思い出す。
「きっとみんな不安なんだと思う。隣にいる人が本当に自分を認めてくれているのか。だけど、そんな不安に押しつぶされないように誤魔化したり、夜に死にそうになりながらも悶えて耐えてる。めちゃくちゃ押しつぶされそうになるけれど、それでももっと仲良くなりたいとか、つながりを無くしたくないから一歩踏み込もうとするんだよ」と、お酒の力を借りれば今ならそう返せるかもしれない。開口一番にあんなことを言ってくる大事な友人に。
田舎の夜道は明かりがないという意味では怖いし、暗くて寒くて嫌になるけれど、時折風で流れていく雲の隙間から見える星が綺麗なのは、いいと思った。